~生と死との隔て~ 作曲家G.フォーレとの対話
トスカーナのセレナーデ(詩・R.ビシーヌ)
おお、幸せな夢に揺られている君よ
君はベッドでひとり静かに眠っているんだね
目覚めて見ておくれよ、この歌い手を
君の瞳の虜になって、この清らかな夜に立っている歌い手を
目覚めてよ、僕の魂、僕の想う人
聞いておくれ、そよ風に乗せて伝わる僕の声を
聞いておくれ、僕の歌う歌を
聞いておくれよ、夜露に濡れながら泣く僕の声を
君の窓の下で僕の声はむなしく消えてゆく それでも毎晩、僕は恋に死ぬ自分を繰り返し訴えにくるのだ。
他に身を隠すところはない。この星空の下。
風は僕の声を打ち砕き、夜は凍り付いている
僕の歌声は消えてゆく。最後の響と共に
僕の唇は震えながらこう呟く「愛してる」と。 僕はもう歌えない!
ああ、君の姿を見せて!姿を現して!
もし君がどうしても出てきたくないとわかっているのなら
僕は君を忘れられるようにと眠りにお願いするんだけどね
真っ赤に染まる朝まで僕を揺すってくれるようにと
君をもう愛さなくても良くなるまで僕を揺すってくれるようにと
セレナーデとはウィキペディアによると夜曲。小夜曲(さよきょく)。
十八世紀に始まった、交響曲より小規模な器楽形式。オペラ風の軽い楽曲。
(恋人の部屋の窓下でかなでる)恋愛の歌曲。
と云われる。
オペラの中などでもとりわけ恋人のいる窓辺の下から夜に歌われる恋の歌が多い。
フォーレの歌曲の中でもっとも演奏されるこの「トスカーナのセレナーデ」はイタリア、トスカーナ地方(フィレンツェの周辺)のセレナーデ、有名な「夢のあとに」と同じくこの地方に伝わる古い伝承詩をフォーレの友人でパリ音楽院声楽科教授であったロマン・ビュシーヌがフランス語の詩に訳したものです。
1880年にポーリーヌ・ヴィアルドによって刊行された「トスカーナ詩集」に促され、イタリア語の原文から上記のロマン・ビュシーヌが自由に書き改めた仏語による詩に基づいて作曲されました。
情熱的な恋人を思う気持ちがラテン系の激しいリズムによって短調で表され私自身が夢に旋律が出てくるほどの旋律美です。
10/22の祈りのレクイエム演奏会で歌われる歌曲をオーケストラ伴で指揮をするにあたり第2部で演奏されるレクイエムの前座になる第1部では、卓越されたフォーレの転調技法による歌曲をお届けします。
元々はレクイエムだけの演奏会を考えていましたが、レクイエムの演奏時間が約30分程しかない事で、何をやろう、、と考えた矢先にそれなら色彩感豊かな歌曲をオーケストラでやったらどうなるか...という考えから至りました。
今、この原稿を仕事の合間に横浜のカフェで書いていますが、この間にもスコアと睨めっこをしオーケストラの音量の調整に惑わされています。
第1部はフォーレの歌曲による人間らしい恋が題材。叶わぬ恋から夢の幻想へ。
第2部のレクイエムは ひとつのストーリー仕立て、1曲目力強いd-moll(ニ短調)によって生と死を別け隔てられた人の運命~神の御前での厳しい審判からの赦し。
チケットも残り僅かなようです。あと一か月少し、作曲家フォーレとの対話を極限まで楽しませて頂きます。